自分の提案に、お客さまが来てくれる
自分から提案して、形になったものはありますか
レッスンのレベル分けです。
それまでは、1つのレッスンの中に初心者の方も上級者の方も混ざっていました。定員8名なら、その8名の中にいろんなレベルの方がいる状態です。それだと初心者の方が入りにくいんじゃないかと思って、初心者だけのクラスを作りませんか、と提案しました。
それが採用されて、いま1枠、初心者だけのレッスンが動いています。提案したことが形になるのはうれしいですし、そこでお客様が来なかったら困るなと思っていたんですけど、ちゃんと来てくださるようになった。それがいちばんうれしかったです。
入って1年に満たない人間の提案でも、ちゃんと真剣に考えてもらえました。卓球事業部の社員が自分1人なので、上司や取締役の方と直接やり取りさせてもらっているんです。前の会社では、上の方と関わる機会がそんなに多くなかったので、この距離の近さはすごくいいなと思っています。こういうクラブチームを作りたいです、という意見も、ちゃんと汲み取ってもらえます。
この仕事で、いちばんうれしいのはどんなときですか
試合の結果を報告してくださる方がいるんです。「前はこれくらいまでしか勝てなかったけど、今回の大会はここまで行きました」と。ああいう報告をいただくと、コーチとしての充実感、達成感があります。
コーチをしていると人との関わりが増えるので、自分が大会に出るときに「頑張ってくださいね」と声をかけてもらえるようになりました。あれもすごくうれしいです。
お客様の言葉でいちばん印象に残っているのは、レッスンの枠が埋まりかけていた頃にいただいたものです。「いまの ractak は、誰にも教えたくない秘密のレストランみたい」って。
店舗を増やしてほしい、という声もいただくんですけど、増やすと自分が別の店舗の準備をしなければいけなくなって、いまのお店のレッスンの数が減ってしまう。「それがすごく嫌だ」と言われたときは、うれしかったですね。
指導で心がけているのは、卓球に限らずだと思うんですけど、「ちゃんと見てくれている」と感じてもらうことです。教わる側からすると、見られていない感じがすると、すごく悲しくなってしまうと思うので。髪型が変わっていたら「髪切りましたか」と声をかけますし、技術のことなら「先週これができていなかったのに、今週はできるようになりましたね」と伝えます。そういう一言があるだけで、もうちょっと頑張ろうと思ってもらえる気がしています。
卓球は、テニスよりも人との距離が近いんです。会話をしながら打てるので、お客様とのつながりがすごく密になる。そこが面白いところだと思っています。

卓球を教えて、生きていきたい
卓球を教える仕事は、いつから考えていましたか
卓球を始めたのは、地元の児童館です。指導者はいませんでしたが、友達とラリーを続けるのが楽しくて。打ったときの音や打球感が気持ちよくて、そのまま続きました。
中学では先生に面倒を見てもらい、高校では全国大会にも出ました。ただ、周りを見れば上には上がいると分かる。卓球をして食べていくより、教えて食べていく方向を考えるようになりました。後輩の面倒を見るのも好きで、人が成長していく過程を見るのが好きなんだ、という自覚がありました。
卓球の道に、まっすぐ進んだわけではないんですね
大学在学中に、地元の立川でクラブチームを立ち上げました。小さな卓球場を借り、会費を数百円いただいて運営していました。
目標にしていたのは、卓球をやったことがない子が始めて、強くなることでした。実際に、自分たちが教えた子が関東大会に出ることができて。それで、クラブチームで人数を広げていったら、その学校だけじゃなくて地区全体が強くなるんじゃないか、と友達と夢みたいな話をしていました。
ただ、2019年から2020年にかけての話です。コロナで会場が使えなくなって、自然消滅してしまいました。
それでも、クラブチームを自分で回してみて、教えるのを仕事にするのはいいなと思いました。ただ、いきなりコーチになろうとしたときに、先輩のコーチから「一度社会人を経験しておいた方がいい」と言われたんです。コーチも一応社会人ですけど、見える世界は限定されるじゃないですか。だから、まず別の企業に入って、転職してから卓球のコーチになろう、と最初から考えていました。
大学で勉強した英語を活かせる仕事として、空港で手荷物検査を取りまとめる仕事に就きました。
仕事自体はすごく楽しくて、やりがいのある仕事だと思っていました。ただ、勤務が不規則で、働きながら卓球も続けたいと思っていたのに、ほとんどできなかったんです。
3年働いて、ある程度貯金も貯まってきたし、そろそろやりたいことを仕事にしたいなと思って探していたときに、スポーツクリエイトという会社を見つけました。中途採用です。ちょうど卓球のスタジオに社員コーチがいなくて、アルバイトのコーチだけになっていたタイミングで、新しく社員を募集していました。2025年の9月1日入社です。
ずっとやりたかった仕事に就いた最初の頃は、ワクワクしかなかったです。
念願の仕事で、工夫を重ねる
いま働いている卓球クラブについて教えてください
ractak という卓球クラブで、社員コーチをしています。グリーンエイトという施設の中にあります。
いちばんの特徴はサブスクです。月会費を払えばレッスンが受け放題で、マシンも打ち放題。来ていただいたら、あとは自由に使っていい。ほかのクラブチームは、レッスンのある時間しか卓球ができないところが多いんです。ractak は卓球場が広いので、レッスンの枠が取れなくても、マシンで打つことはできる。そこが、ほかにはない強みだと思っています。
ターゲットは初心者です。理由は2つあって、1つは、ある程度経験のある子が入っても、その成長過程を見られる時間が短いこと。長く見せてもらうには、初心者の方に入っていただいて、続けてもらうのが一番いいんです。
もう1つは、卓球を広めたいという気持ちです。自分が中学で始めた頃、卓球はマイナースポーツだと言われていました。自分の中では、わりとネガティブな言葉だったんです。いまはテレビでもよく取り上げてもらえて、自分としてはすごくうれしいんですけど、あの頃の悔しさは残っています。
レッスンのほかに、事務作業や締め作業も担当しています。平日と土日でレッスンの組み方が異なり、合間にお昼の休憩を取っています。
休みの日も、だいたい卓球です。まだ知名度がそんなにないので、自分が大会に出ることで少しでも広まれば、と思って試合にも出ています。あとはピアノを弾いたり、日帰りで旅行に行ったりですね。

この1年で、うまくいかなかったことは何ですか
最初にいちばん苦しかったのは、初心者の方と経験者の方の差です。
卓球は、経験のある方とない方でどうしても差がついてしまうスポーツです。初心者の方が経験者の方と打つと、「相手の練習にならないから申し訳ない」とおっしゃる。それで気まずくなって辞めてしまう方が、最初はすごく多かった。
経験者の方は、実はそこまで気にしていないんです。それでも、申し訳ないという気持ちのほうが勝ってしまう。これをどう改善するかは、今でもまだ迷っているところです。
もう1つ、印象に残っているのは、レッスンの形を変えたときのことです。より多くの方が受けられるようにと思って定員を増やしたんですけど、それによって「打つ幅が狭くなった」「ラケットが当たりそうになる」という声をいただきました。あとは、「こんなふうに勝手に変えないでほしかった」と。
自分たちは良かれと思ってやったことなんです。でも、お客様から見たらそれは違った。そのギャップを、アンケートに初めて書いていただいたときのことは、すごく印象に残っています。
アンケートは、まだ1年で2回くらいしか取れていません。上司と、これから定期的に取っていこうね、という話をしているところです。
次の店舗への期待と、不安
これから挑戦したいことと、卓球を続けたい学生へメッセージをお願いします
まだ、クラブチームとして大会に出られていないんです。ractak という名前を使って試合に出たことが一度もない。会員の方が ractak の名前を背負って、大きな大会に出てくれるようなクラブにしたい、というのが目標です。
2店舗目の話も出ています。上司が前から場所を選定してくださっていて、まずは会員を増やしてから、という段階です。ただ正直に言うと、1店舗を自分の目が届く範囲で見るのと2店舗になるのとでは全然違うので、恐怖もあります。ちゃんとやりきれるか。自分が離れたら、もともといたお客様が辞めてしまわないか。まだ社員が自分1人なので、全部をアルバイトの子に任せることになるのは不安です。
自分は、新しいことにワクワクするけど、やっぱり怖い。前に進むけど、後ろにも下がる、みたいな性格なんです。とりあえずやってみるか、というタイプではなくて、借りる場所はいくらで、何人集まったらこれくらいのお金が入って、というのを立ててから動く。大学でクラブチームを作ったときもそうでした。
それでも、どっちが大きいかと言われたら、ワクワクのほうです。この会社は、こういうことをやりたいですという意見をちゃんと汲み取ってくれるので、恐怖よりワクワクさせてくれるんですよ。
私欲みたいなものですけど、いつか地元の立川に ractak を作りたい、というのもあります。地元の友達に「立川には作らないの、できたら行くのに」ってずっと言われているんです。
あと、卓球事業部の社員はいま自分だけなので、同じ事業部の仲間が増えたらうれしいなと思っています。
卓球を仕事にしようか迷っている人に伝えたいのは、人とのつながりを本当に感じられる仕事だ、ということです。将来、自分が教えた子が自分の練習相手になったり、自分を超えるような存在になったりする。そうすると、コーチとしての質も高まりますし、自分の技術も上がります。ほかのスポーツではなかなか味わえないものが味わえるのが、卓球のコーチだと思っています。


